ダヴェンポート兄弟
Ira Erastus Davenport(1839-1911)と William Henry Davenport(1841-1877)

「霊が起こした」として演じた兄弟。マスケリンに暴かれ、ケラーを育てた当事者。
- 生
- 1839
- 没
- 1911
- 国・拠点
- アメリカ
- 時代
- 近代奇術の黎明
この名鑑には、彼らをめぐる記述がすでに2か所ある。マスケリンが告発した相手として、そしてケラーが下積みをした場所として。19世紀後半のマジック史は、この兄弟を経由して二方向に分かれていく。
主な功績
- ニューヨーク州バッファロー生まれ。兄アイラ・イラスタスは1839年9月17日、弟ウィリアム・ヘンリーは1841年2月1日に生まれた
- 「キャビネット」と呼ばれる囲いを心霊術の演目に持ち込み、楽器がひとりでに鳴るなどの現象を見せた
- 1865年6月、イギリス・チェルトナムでジョン・ネヴィル・マスケリンとジョージ・アルフレッド・クックにより、その手口を舞台上で公開された
- 1869年、若きハリー・ケラーが一座に加わっている。のちのアメリカ奇術界の長老は、ここで下積みをした
バッファローの兄弟
兄アイラ・イラスタス・ダヴェンポートは1839年9月17日、弟ウィリアム・ヘンリー・ダヴェンポートは1841年2月1日、いずれもニューヨーク州バッファローに生まれた。
彼らが心霊術の世界に持ち込んだのが「キャビネット」である。演者が入る囲いを用意し、そのなかから楽器がひとりでに鳴るなどの現象が起きる。手足を縛られた状態で囲いに入り、扉が閉まると音が鳴りだす。
この形式は、以後の心霊術の演目の型になった。
「芸である」と言わなかったこと
ここが重要な分岐点である。
マジシャンは、自分の演目を芸として提示する。 不思議なことが起きるが、それは演者の技術によるものであり、超自然の力ではない。この前提を観客と共有したうえで驚かせる。
ダヴェンポート兄弟は、そう言わなかった。霊が起こしていると説明された。
同じ現象でも、この一点で性質がまったく変わる。芸として提示すれば娯楽になるが、霊の実在の証拠として提示すれば、それを信じた人の判断や金銭に影響が及ぶ。19世紀の心霊術ブームでは、多額の金銭が動き、信じた人々が傷ついた。
1865年6月、チェルトナム
1865年6月、イギリスのチェルトナムで、若きジョン・ネヴィル・マスケリンが彼らの公演を観ていた。
そして偶然が起きる。会場の高窓にかかっていた布の一片が落ち、その一瞬、拘束されていないはずのアイラが、囲いの内側から楽器を手で放り投げている姿が見えたと伝えられている。
マスケリンは仕組みを理解した。そして家具職人のジョージ・アルフレッド・クックとともに、その手口を舞台上で公開してみせたのである。
この一件が、マスケリンを職業奇術師の道に進ませた。イギリスのマジック界の礎は、この告発から始まっている。
1869年、ケラーが加わる
ところが物語には、まったく別の続きがある。
1865年にイギリスで告発された同じ一座に、1869年、アメリカで若きハリー・ケラーが加わった。 一座は「ダヴェンポート兄弟とフェイ」を名乗っており、ケラーはここで巡業の仕事を覚えていく。
のちに「アメリカ奇術界の長老」と呼ばれ、ハワード・サーストンに看板を譲ることになる人物の出発点が、この一座だった。
同じ兄弟が、片方の演者には敵となり、もう片方には修業の場となった。 19世紀後半のマジック史における主要な二つの流れ——イギリスのマスケリン系と、アメリカのケラー系——は、どちらもこの兄弟を経由している。
その後
弟ウィリアム・ヘンリーは1877年に、兄アイラ・イラスタスは1911年に世を去った。
彼らを名鑑に収めたのは、演者としての評価のためではない。マジックが「これは芸である」と宣言する芸であることを、その反対側から照らし出す存在だからである。
マスケリンからフーディーニ、そしてペン&テラーへと続く「不思議を装う嘘を見抜く」伝統は、この兄弟への異議申し立てから始まった。
代表的な演目・著作
- 「キャビネット」を用いた公演 — 心霊術の演目の型を作った
年表
確認できた年のみを記載しています。
- 1839 9月17日、兄アイラ・イラスタス・ダヴェンポートがニューヨーク州バッファローに生まれる
- 1841 2月1日、弟ウィリアム・ヘンリー・ダヴェンポートが生まれる
- 1865 6月、チェルトナムでマスケリンとクックにより手口を公開される
- 1869 ハリー・ケラーが一座に加わる
- 1877 弟ウィリアム・ヘンリーが死去
- 1911 兄アイラ・イラスタスが死去
親子で観るときの注目ポイント
- 「霊がやった」と説明される現象と、「私がやった」と説明される現象の違いを考えてみてください
- マジックは、演者が「これは芸である」と宣言している点が本質です。そこが宣言されないとどうなるかを考える材料になります
- 親子で話すなら「信じてもらうことと、驚いてもらうことは違う」というテーマが合います
このサイトでは種明かしをしません
マジックのタネや仕掛けの解説は一切掲載していません。知らないまま驚けることこそが、この芸のいちばんの価値だと考えているからです。
公式リンク
出典
このページの生没年と実績は、以下の資料で確認しています。
- Davenport brothers Wikipedia(英語版)
- Davenport Brothers, Ira Erastus (1839–1911) and William Henry (1841–1877) Encyclopedia.com
- Ira Erastus Davenport Magicpedia(Genii Magazine)